2023年7月23日(日)の朝。
6歳の娘、雪ちゃんとの小さなケンカからそれは始まった。
我が家ではYouTubeを見て良い時間を決めているが、規定時間外に雪がYouTubeを見ていたので、私は注意した。
激昂した雪に厳しい言葉を投げかけられた。
「おとう(さん)なんて生まれてこなきゃ良かった!」
最近は怒った時にいかに言ってはいけない言葉を投げられるか彼女も探っているようだが、この言葉は私の耐性キャパを超えてきた。
「YouTubeを注意しただけで、なんでそんなこと言われなあかんの!」
それから謝ってこない雪に対し、しばらく口を聞かないという大人げない対応を取ったが、妻に促されて謝ったか謝ってないかわからないくらいのやりとりがあり、夕方にはもう打ち解けていた。
ところが日が暮れるにつれ私の体調が悪くなってきた。
どうも身体がだるく、とにかく寒い。
熱を測ると、なんと40度を超えていた。
これはただごとではないと思い、家にあった検査キットを使用した。
鼻に綿棒を突っ込み、液体と混ぜたものをキットに垂らすと線の色が変わるものだ。
待ち時間15分と書いてあったが、5分も経たずに結果は現れた。
「これは完全に新型コロナ陽性だ。」
そんなこんなで寝る部屋は家族と別れることになった。
別れ際に雪ちゃんに少し意地悪なことを言ってみる。
「今までありがとうな。お父さんもうあかんかもしれへんわ。頭も割れそうやしすごく寒い。」
それを聞いた雪は、不安になる。
「おかあ(さん)、おとうもうあかんの?」
妻もこう言う。
「人はいつどうなるかわからんからな。」
雪は少しシクシクと泣き、その後の別れ際こう言った。
「おとう、明日生きてたら『逃げて』(我が家での鬼ごっこ)してな?頑張って生きてな。おやすみ。」
なんとも胸を打つ瞬間だった。
私も少し泣いていたかもしれない。熱のせいかもしれないが。
翌朝。
熱はまだ下がってはいなかったが、私はなんとか生きていた。
熱はまだ39度。
ぐっすりと眠り、私より後に起きてきた雪が言う。
「おとうー!生きてるかー?」
私もしんどいながら答えた。
「おーう、生きてるぞ。ご心配ありがとう。」
勿論、雪はこう言う。
「『逃げて』してー!」
それへの私の答えはこうだ。
「勘弁して〜。」